東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)31号 判決
一 原告が特許庁に対し、昭和三〇年一一月二七日山田努を被請求人として実用新案第四一六二九九号登録無効審判(昭和三〇年審判第五六三号)を請求したこと、和解成立により原告が昭和三二年八月二五日右無効審判請求を取下げたこと、他方山田キクが原告を相手方として提起した権利範囲確認審判の抗告審判事件において昭和三三年一〇月二日審決がなされ、原告がその取消を求めて提起した東京高等裁判所昭和三三年行(ナ)第四八号事件において、右抗告審判の審決を取り消す旨の判決があり、山田キクがこれに対し上告したこと、原告が昭和三五年三月二五日特許庁に対し、和解が破毀されたことを理由として再審(昭和三五年再審第一号)を請求し、右取下げた事件の復活の申立をしたことは当事者間に争いがなく、審決の理由の要旨が原告主張のとおりであることは成立に争いのない甲第一四号証によつて認められる。
二 原告は本件再審事件は前記の理由に基づき前記無効審判事件の復活方を請求するものであるから、実用新案に関し準用せられる旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第八七条の規定により審判長は請求書の補正を命ずべき義務があると主張するけれども、右法条の補正の対象は法令に定めた方式違背という形式的な事項に限られるから、再審請求書として法令に定めた方式違背の点が認められない以上、たとい請求の理由が原告主張のとおりであるとしても、審判長に右法条により補正を命ずべき義務があるということはできない。
三 次に原告は審決には事件の当事者たる適格のない被告石原重太郎を当事者として審決した違法があると主張するけれども,原告は当初山田努を被請求人として本件再審の請求をしたが、その後の訂正により被告両名を被請求人としてしたことは原告の自ら主張するところであり、(なおその成立と争いのない甲第一八号の二、三参照)成立に争いのない甲第四号証の一、二に弁論の全趣旨を総合すると、前記無効審判事件の対象である実用新案登録第四一六、二九九号の権利者は当初山田努であつたが、前記取下当時は被告両名であつたことが窺われるから、右訂正が原告主張のような事情のもとに行なわれたとしても、被告石原重太郎をも当事者として本件審決がなされた点になんら違法は認められない。
四 原告は審決が本件請求を再審事件であると強弁したというが、前記甲第一八号証の二、三に依ると、原告は当初特許庁に「再審(原審復活)請求書」と題する書面を提出したが、その後これを「再審請求書」と題する書面に補正し、しかも該書面には「旧特許法第一二一条第二項の規定を以て援用する民事訴訟法第四二〇条第一項の規定に依る原審復活請求事件」と明記してあることが認められるから、特許庁がこれを再審の請求として取扱つたことを不当ということはできない。そして、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第二六条により準用する旧特許法第一二一条第一項によると、再審の請求は確定審決に対する不服の方法であることが明白であるから、無効審判の請求が取下げられ、確定審決がなされなかつた本件の場合に、再審の請求が不適法として却下を免れないことは審決説示のとおりであつて、これをもつて審決が法律の適用を誤つたと解することはできない。
五 原告は特許庁が自己の責任により争を再発せしめたというが、前記抗告審判事件が取下げられない以上、特許庁が該事件につき審決をするのは当然の職責であつて、これをもつて争を再発せしめたというのは当らない。また、原告は特許庁が右無効審判事件につき復活の措置をとらず本件審決を行つたことは違法であると主張するが、本件審決がなされたのは原告が再審の請求をしたためであること前に説明したとおりであるから、原告の右主張は理由がない。